「第5次エネルギー基本計画」の現況と第6次策定の方向性(その1)

1.「エネルギー基本計画」とは

①エネルギー政策の基本的な方向性

    「エネルギー基本計画」は、2002年6月に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、有識者会議(審議会)の議を経て政府が策定するもので、「安全性」と「安定供給」、「経済効率性の向上」、「環境への適合」、の「3E+S」というエネルギー政策の基本方針に則り、エネルギー政策の基本的な方向性を取りまとめたものです。

②「エネルギー基本計画」の推移

    エネルギー基本計画は、2003年10月に第1次が策定され、その後、3~4年毎にエ ネルギー情勢の変化等を踏まえて見直され、2007年3月に第2次、2010年6月に第 3次、東日本大震災(2011年)後の情勢変化等を踏まえ、2014年4月に第4次が策 定されました。

    第4次エネルギー基本計画を踏まえ、2015年7月、2030年度における具体的数値 目標として、「長期エネルギー需給見通し」及び「電源構成」(エネルギーミックス) が策定されました。

    現在のエネルギー基本計画は2018年7月に策定された「第5次エネルギー基本計 画」です。温暖化対策に関する新たな国際的な枠組み「パリ協定」の発効(2016年 11月)を受け、世界は「脱炭素化」に向けて動き出し、技術間競争も激化していま す。こうした情勢の変化を踏まえ、同計画では、2030年、さらに2050年を見据えた 新たなエネルギー政策の方向性を示しました。

「エネルギー基本計画」の推移

(出所)経済産業省資料

2.「第5次エネルギー基本計画」の現状

①「2030年度の長期エネルギー需給見通し」

    「2030年度の長期エネルギー需給見通し」は、2030年の経済活動や国民生活の見 通しを踏まえ、エネルギー需給構造のあるべき姿を「数値目標」として示したもので す。

    策定に際しては、(ⅰ)エネルギー自給率は震災前を上回る水準(概ね25%程度)(ⅱ)電力コストは、現状よりも引き下げる。(ⅲ)欧米に遜色ない温室効果ガス削減  を目標に世界をリード。2015年6月に示されたCOP21に向けた地球温暖化対策の目標において全体で26.0%のCO2排出量の削減が目標として掲げられています。同時に、原発依存度は可能な限り低減することを基本方針としています。

    同需給見通しでは、一次エネルギーベースで、原油換算4億8,900万klのうち、 石油は33%程度(2015年度40.6%、LPガスを含む)、天然ガスは18%程度(23.4%)、 石炭は25%程度(25.7%)で、化石燃料が4分の3を占める見通しとなっています。

(出所)経済産業省資料

②2030年度の電源構成

    また、2030年度の電力需要は徹底した省エネ実施の下、9,808億kWhと見る一方、 電源構成は、総発電電力量1兆650億kWhのうち、LNG火力27%、石炭火力26%、 石油火力3%と火力発電が56%、原子力が20~22%程度、再生可能エネルギーが22 ~24%程度、計44%相当との比率が示されました。

    このうち、水力・石炭火力・原子力等によるベースロード電源比率は56%程度とな り、原子力の稼働がゼロとなった2013年度からは16ポイント引き上げられること になりました。原子力と石炭で46~48%を確保し、残りの8~10%を地熱と水力で賄 う形となっています。

    また、再生可能エネルギーのエネルギー別では、水力が8.8~9.2%、太陽光が7%、 バイオマスが3.7~4.6%、地熱が1~1.1%と設定されています。

2030年度の電源構成(エネルギーミックス)

(出所)経済産業省資料

③導入進捗状況

    「一次エネルギー供給」と「電源構成」について、2030年度の目標に対する2018 年度の導入進捗状況はおおむね以下の通りです。

    「一次エネルギー供給」では、原子力の再稼働の遅れ、再エネの導入遅延等により、 原子力は目標の11~10%に比して3%、再エネも13~4%に対し12%に止まっており、 それを補填する形で、化石エネルギー比率が76%の目標に対し、86%と10%オーバ― しています。

    「電源構成」についても同様のことが言えます。

    原子力は目標値の20~22%に対し、現行水準は6%と大幅な低水準となっています。 また、再エネについても22~24%の目標値に対し、17%程度に止まっています。  再エネについて、個別エネルギー別にみると、水力(現状7.7%⇒目標値8.8~9.2% 程度)、太陽光(6.0%⇒7.0%程度)、風力(0.7%⇒1.7%程度)、バイオ(2.3%⇒3.7~ 4.6%程度)、地熱(0.2%⇒1.0~1.1%程度)となっており、風力と地熱が低水準で推移 しています。

    一方、世界との比較でみると、2012年にFIT制度(固定価格買取制度)による支援 措置を導入されたことから、再エネ比率は17%(2018年度)となり、再エネ導入量 は世界第6位(2017年)と拡大し、この6年間で約3倍にという日本の増加スピー ドは、世界トップクラスとなっています。

再生可能エネルギーの導入状況

(出所)経済産業省資料

3.第6次策定の方向性

(1)第6次策定に向けて

①総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の開催

    2020年10月13日に開催された第32回「総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)」で、第5次エネルギー基本計画の見直し(第6次策定)に向けた議論が開始されました。

    梶山弘志経産相は冒頭、「菅新政権は脱炭素社会実現、安定供給に取り組むことが方針」と述べた上で、「日本のエネルギー政策は重要な岐路に立たされている。貿易立国が経済の礎である以上、グリーンと経済性の両立が必要」と活発な議論を求めました。

    第6次エネルギー基本計画策定に向け、ここ数年の環境変化を踏まえた「3E+S」を目指す上での課題を整理するとともに、50年に向けたエネルギー需給構造などを議論。その上で、30年に向けたエネルギーミックスの達成状況などを評価する意向です。

    現行計画では再エネを初めて「主力電源」と明記したものの、30年度の全電源に占める比率は22~24%に据え置きました。同時に「安全が確認できたものは再稼働」する原発で20~22%を賄うとしています。

    今回の見直し議論の要は、2050年カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)の実現と2030年目標に向けたエネルギー政策の見直しです。

②計画見直しにおける、さまざまな視座(視点)

    現行計画を見直すにあたって、基本政策分科会(有識者会議)ではさまざまな視座 (「物事を見る姿勢や立場」)が提示されました(下表参照)。

    まず、1つ目の視座として、米中対立や中東情勢の緊迫化、また、コロナ危機によるサプライチェーンの断絶、そしてエネルギー・資源需要の減少、それに伴う価格の下落などの国際情勢の変化。こうした国際情勢の変化を受け、エネルギー需給率の向上、資源の安定的かつ低廉の調達、サプライチェーンの再構築により、いかなる状況下でもエネルギーの安定供給を確保する必要があるのではないかということ。

    次に、気候変動問題への危機感の高まり。気候変動に起因する大規模な自然災害が世界中で頻発する中、EUでは2050年カーボンニュートラル実現に向けた戦略を策 定。中国も2060年カーボンニュートラルを目指すと宣言しました。民主党のバイデン大統領は気候変動対策の強化やパリ協定復帰を宣言。世界がカーボンニュートラルを目指す動きを活発化させる中、資源の乏しい日本は、安定供給を確保しながら、どのように脱炭素化を目指すべきかということ。

    3つ目の視座が、国内情勢の変化。わが国でも「過去に経験したことのない」自然 災害が頻発する中、電力・燃料のエネルギーインフラは高経年化し、技術者の高齢化 も進み、エネルギー供給基盤に揺らぎが生じている。こうした中、自然災害時にも素 早く回復する、強靭かつ、エネルギー供給を確保する仕組みをつくっていく必要があ るのではないかということ。

    さらに、再エネのコスト低下は進むが、FIT賦課金により国民負担は増大している。 また、FITによる再エネ導入拡大などにより卸電力市場での取引価格が下落し、FIT電 源以外の電源への投資回収の見通しが立てづらい状況になっている。電力自由化が進 む中で、いかに長期的なエネルギー安定供給に必要な投資を確保すべきかということ。 蓄電池、水素、次世代太陽光など日本が要素技術を持つ分野がある、しかし、世界を リードできる可能性を持つ分野においても、実用化や社会実装がスピード感を持って 実現しないがゆえに、他国に先導される危機が顕在化している。そのため、産業政策 を通じて、国内外での市場創出を加速し、世界を先導することを目指す取り組みをし ていく必要があるのではないかということ。

③分科会での主な意見

    10月13日の会合では委員から再生可能エネルギーや原子力の活用のみならず、水 素、カーボンリサイクルなど、日本が強みを持つ技術の活用を訴える声が目立ちまし た。

第5次「エネルギー基本計画」策定(2018年7月)以降のエネルギーを巡る状況変化を踏まえた、今後の検討の主な視座(案)(順不同)

(出所)経済産業省資料を基に作成

(2)菅内閣総理大臣の所信表明演説

    菅義偉内閣総理大臣は10月26日、就任後初の所信表明演説で、「わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。(中略)省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」と表明しました。いわゆる「カーボンニュートラル」を目標に掲げたことを受け、梶山経済産業相は、「(中略)カーボンニュートラルに向けては、温室効果ガスの8割以上を占めるエネルギー分野の取組が特に重要です。カーボンニュートラル社会では、電力需要の増加も見込まれますが、これに対応するため、再エネ、原子力など使えるものを最大限活用するとともに、水素など新たな選択肢も追求をしてまいります。」と述べた上で、カーボンニュートラルを目指すために不可欠な水素エネルギー、蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力などについて、具体的な目標や制度の整備、実社会での活用を進めるための支援策などを盛り込んだ行動計画を、年末を目途にまとめると発表しました。

    (その後、同行動計画は12月25日、「グリーン成長戦略」として取りまとめられた。)

(3)今後の動向

    前述の基本政策分科会では、第2回(第33回)以降の会合で、2015年7月に策定 された「長期エネルギー需給見通し」、「電源構成」について議論が行われ、原子力、 再エネ更に化石燃料の石炭、天然ガス・LNGの数値目標が大幅に見直されることと なるでしょう。

    また、菅総理が国会で表明した「わが国は2050年までに温室効果ガスの排出を全 体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を 目指すことをここに宣言する」に向けた具体的な青写真がどのように具体化されてい くのか、多くの関心が寄せられています。

    基本政策分科会第2回会合が令和2年11月17日に開催され、「2050年カーボン ニュートラルの実現に向けた検討」をテーマに活発な議論が行われました。更に、12 月14日の第3回会合では、テーマは関係団体からのヒアリングで、再生可能エネル ギーを含めたエネルギー政策に造詣が深い、国立環境研究所、自然エネルギー財団、 日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所がそれぞれプレゼンを行った上で、再エ ネの導入拡大について議論を深めました。

    基本分科会での見直し議論に併行して、総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分 科会 石油・天然ガス小委員会においても「2030年/2050年を見据えた石油・天然ガ ス政策」について議論が開始されました。

    第2回以降の基本政策分科会の動向については、第6次エネルギー基本計画策定 の方向性(その2)で詳しく解説することとしています。

<参考> エネルギー自給率、化石燃料依存度、再エネ依存度の推移

(出所)各種データを基に作成

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