「新国際資源戦略」(2020年3月)の課題と見直し(その1)

1.はじめに

    経済産業省は2020年3月30日、「新国際資源戦略」(提言)を策定しました。

    本提言は、2019年7月の資源・燃料分科会報告書で、一次エネルギーの約9割を占める化石燃料を輸入に依存するという構造的な脆弱性が再認識され、真の「3E+S」、すなわち、安全性を前提に、エネルギーの安定供給を第一として、低コストのエネルギー供給、環境への適合を図るための指針となることを目的に、政府に対する提言として策定されました。

    また、本提言は、石油・天然ガス小委員会および鉱業小委員会の合同会合(小委員長:平野正雄早稲田大学商学学術院教授)で、各分野を代表する専門家の活発な議論を基に、最終的に「総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会」(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)で取りまとめられました。

    経済産業省の資源戦略としては、東日本大震災以降の天然ガスなど化石燃料の調達コスト増大への対応策等をまとめた2012年の「資源確保戦略」以来、8年ぶりの策定となりました。

2.「新国際資源戦略」の概要と課題

(1)5章から構成

    本提言は、下図の通り、「はじめに」、「地政学的リスクの変化を踏まえた石油・LNGのセキュリティ強化」、「産業競争力の要となるレアメタルのセキュリティ強化」、「気候変動問題への対応加速化」と「おわりに」の5章から構成されています。

    原油の調達先多角化に向けた資源外交の強化、需要拡大が見込まれるアジア各国と連携した石油備蓄体制の整備、CO2を資源と捉え活用するカーボンリサイクル技術推進が盛り込まれています。

(2)対応の方向性

    ①石油・LNGのセキュリティ強化

    中東内の資源外交強化、柔軟な国際LNG市場の形成と拡大するアジア需要の取り込み(ファイナンスおよび人材育成)、わが国の石油備蓄の充実、石油精製・元売会社のアジア地域への展開、アジアLPG市場の拡大と対応、石炭の安定供給への対応など。

    「わが国の石油備蓄の充実」として、「日本の石油備蓄については、(ⅰ)国が保有する「国家備蓄」、(ⅱ)石油備蓄法に基づき石油精製事業者などが保有する「民間備蓄」、(ⅲ)UAE(アラブ首長国連邦)とサウジアラビアとの間で 2009 年以降開始された「産油国共同備蓄」で構成されており、現在、国内消費量の 200 日分超(IEA 基準;190 日超)に相当する量が確保されている。(略)現在の備蓄数量はおおむね維持しつつ、緊急事態が発生した場合においても、原油及び石油製品の安定供給の確保に向けて必要な対応が円滑に発動できるよう、平時より、石油精製・元売会社との連携強化、必要に応じた油種の入れ替え、総合的・実戦的なシミュレーションや訓練等、国家備蓄、民間備蓄及び産油国共同備蓄の機動的かつ効果的な活用に向け、官民が連携して体制を整えておくことが必要である。(略)また、「産油国共同備蓄」については、「日本と産油国との関係の深化に資するものであるのみならず、平時には、日本を含む東アジア全体をカバーする石油供給拠点としての役割も持っており、アジア市場の今後の動向も踏まえつつ、更なる活用・拡大を図るべきである。」と提言しています。

    また、「石油精製・元売会社のアジア地域への展開」として、「今後、国内の石油需要が減少していく中でも、引き続き石油を安定的に供給できる基盤を維持・確保していくためには、石油精製・元売各社においては、国内製油所の競争力強化に引き続き取り組んでいくとともに、アジア等の拡大する海外市場において石油精製・販売事業といったビジネスを拡大し、ネットワークを構築していくことが重要である。また、平時からこうした形で、近隣のアジア諸国におけるビジネスやネットワークを強化しておくことは、日本国内における災害等の緊急時において、石油製品の安定的な供給の確保に資する側面もある。このため、政府としても、石油精製・元売会社の海外展開について、資源外交等の活用も含め、引き続き支援していくことが必要である。」と提言しています。

    ②レアメタルのセキュリティ強化

    鉱種ごとの戦略的な資源確保策の構築、供給源多角化の促進、備蓄制度の見直し等によるセキュリティ強化、資源確保に向けた国際協力など。

    ③気候変動問題への対応加速化

    カーボンサイクル等の国際展開、気候変動問題に配慮した油ガス田等の開発の促進等。

    「気候変動問題への対応の必要性」として、「パリ協定の発効を受け、主要国は 2050 年に向けた野心的な構想・ビジョンを公表しており、日本も 2030年度26%(2013 年度比)、2050年80%削減を目指している。このように脱炭素化への対応が重要課題となっている一方、世界のエネルギー需要は、新興国を中心に増加する見込みであり、経済性やエネルギーセキュリティの観点から、アジア・アフリカを中心に今後も化石燃料を利用する状況は継続される。このような状況下で「環境と成長の好循環」を実現するためには、非連続なイノベーションによる解決が不可欠となっており、全ての可能性のある技術に取り組む総力戦が必要になっている。こうした中、省エネルギーや再生可能エネルギーの普及による CO2排出削減に加え、CO2を有効利用していくカーボンリサイクルのアプローチを世界全体で進めていくことが必要である。また、企業においても、上流から下流までのサプライチェーンの全段階において CO2 の排出を抑制しながら化石燃料の安定供給を図っていく取組が重要になっている。」と提言しています。また、本宣言で、初めて政府の温暖化対策の具体策に「燃料アンモニアの利用拡大」が取り上げられました。

    (3)戦略策定に当っての3つの留意点

    最後に、新戦略の策定に当っては、特に以下の3点に留意すべきと提言しています。

    ①世界における地政学的な日本のポジションや日本の技術力、資本力などの総合力を上手く活用することにより、供給国に付加価値を与えうる存在としてわが国のプレゼンスを発揮すべきである。

    ②政府の役割の重要性である。エネルギー市場がより一層複雑化していく一方で、資源燃料の確保は、外交や環境など、様々な分野に関わってくる問題である。政府がこれまで以上に主体的に、全体整合性をとって進めていくことが期待される。

    ③JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の役割の強化である。国際市場が大きく変革する中で、JOGMECの役割もより多様に、より戦略的になることが求められている。技術、人材、ファイナンス、情報等の資産や国内外のネットワークのハブとしての役割を十分に活用しつつ、戦略的かつ総合的な政策実施主体としての機能をさらに強化する必要がある。また、リスクマネー供給機能の拡充にあたっては、必要となる審査能力の 維持・向上に取り組むことも必要である。

全体構成
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(出所)経済産業省資料を基に作成


3.現行戦略の見直し

(1)直近の石油・天然ガスを巡る環境変化

    2020年1月以降、コロナ拡大に端を発した油価低迷や世界的な化石燃料からのダイベストメントの加速化による上流投資の減少及び将来的な需給逼迫リスクの増大、中国やインド等の新興国の石油・天然ガス需要の増加に伴うわが国のマーケットにおける相対的な地位低下など、いままでは想定していなかった外的要因が生じ、石油・天然ガスの安定供給確保に向けた不安要素となっていること。

    加えて、2020年10月には、菅総理から2050年のカーボンニュートラル実現を目指すことが宣言された。また、世界の急速な環境意識の高まりも相まって、GHG(温室効果ガス)排出を抑える取組を実施することが上流開発を行う上での必須条件となりつつあること。

    こうした直近の大きな環境変化を踏まえ、これまでの取組を整理するとともに、①エネルギー安全保障の観点から見た石油・天然ガスの安定供給確保と、②わが国及び世界のカーボンニュートラル実現、に向けた課題整理と方向性について検討する必要性が高まってきたこと。

(2)総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会石油・天然ガス小委員会の開催

    経済産業省は、上記の環境変化等を踏まえ「2030 年/2050 年を見据えた石油・天然ガス政策」を取りまとめるため、資源・燃料分科会石油・天然ガス小委員会を2020年12月8日に開催しました。

    同委員会は2021年3月の取りまとめに向けて所要の検討を開始しました。 委員会での検討結果は上部組織の総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会での了承後、「第6次エネルギー基本計画」にも反映されることとなります。

    取りまとめの経過及び概要については次回以降回を改めてご説明いたします。

石油・天然ガスの課題
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(出所)経済産業省資料を基に作成


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(出所)経済産業省資料


原油・LNGの中東依存度
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(出所)財務省貿易統計


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