「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その4)
-2030年に向けたエネルギー政策のあり方―

1.はじめに

    現行の第5次エネルギー基本計画では、2030年度の温室効果ガス排出量を「2013年度比で26%減」を掲げています。菅首相が打ち出した50年の「実質ゼロ」の達成には、より高い目標が必要と判断されています。米欧では中長期だけでなく30年の数値に重点が置かれています。

    2021年4月22日の気候変動サミット、6月11~13日のG7サミット等の目白押しの外交日程に合わせて、第6次エネルギー基本計画策定に向けた議論も活発化しています。今年2月以降、これまでの2050年カーボンニュートラルに向けた議論を踏まえて、2030年のエネルギー需要と再エネの導入拡大が主要テーマとなっています。

    第39回分科会(3月24日開催)では、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会等のエネルギー供給事業者を代表する6団体に加え、外務省、環境省からのヒアリングが行われました(第37回分科会では経団連、日本商工会議所等に対して実施)。日本ガス協会、石油連盟などの化石燃料を取り扱う事業者からは、昨年のカーボンニュートラル宣言を受けて新たな事業形態を急速に模索する姿勢が窺えます。

    第39回分科会(3月24日開催)では、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会等のエネルギー供給事業者を代表する6団体に加え、外務省、環境省からのヒアリングが行われました(第37回分科会では経団連、日本商工会議所等に対して実施)。ガス協会、石油連盟などの化石燃料を取り扱う事業者からは、昨年のカーボンニュートラル宣言を受けて新たな事業形態を急速に模索する姿勢が窺えます。

    今回は、4月13日に開催された第40回の分科会の「2030年に向けたエネルギー政策のあり方」について、その概要を説明します。

※画像クリックで拡大します。

2.2030年に向けたエネルギー政策のあり方

    今回の「2030年に向けたエネルギー政策のあり方」は、2030年の「エネルギー需要のあり方」と「再エネの導入拡大について」の2つのサブテーマを軸に、事務局の説明(133ページに亘る説明資料)を踏まえて、踏み込んだ議論が展開されました。

資料1~5はいずれも当日分科会で配布されたものです。

(1)エネルギー需要について

    ①2030年のエネルギー消費量の見通し

    ②エネルギー需要への対策について(省エネ対策の深掘等)

資料1 2030年のエネルギー需要のあり方についてご議論いただきたいこと
※画像クリックで拡大します。

「2050年のカーボンニュートラル目標を踏まえた、2030年に向けたエネルギー政策を検討する上では、2030年時点の需要サイドのあり方が重要となる。現在想定している2030年のエネルギー需要の絵姿は、現行の長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)の策定時点(2015年)に想定されたものであり、そこから5年以上が経過し、実際の経済動向などの変化を踏まえ、改めて2030年の需要の絵姿を想定する。」としています。

    また、「省エネ政策の深掘りを踏まえた、2030年の省エネ対策による削減量については、足元までの省エネ対策の進捗を踏まえつつ、現行目標の確実な実現に向けた取り組みの強化、省エネ目標の更なる引き上げの可能性などについて検討を行う。」としています。

資料2 2050年カーボンニュートラル目標を踏まえた、2030年に向けた需要側の取組の方向性

※画像クリックで拡大します。

(2)再生可能エネルギーについて

    再生可能エネルギーの2030年導入量の見通しについては、「梶山経済産業大臣の指示も踏まえ、3月1日から『大量導入・次世代ネットワーク小委員会』(大量導入小委)にて検討を開始し、各電源の課題や導入見通しに関し、研究機関や事業者等に対するヒアリングを集中的に実施し、計6回・20者の意見を伺ってきたところ。4月7日の大量導入小委では、ヒアリングの結果を踏まえ、各電源毎に、既存認定分が稼働した場合の導入量を示しつつ、今後の新規分による導入量として、1)現行政策努力を継続した場合(適地減少の中で、政策努力の継続により現行ペースを維持・継続した場合の見通し)2)政策対応強化の効果を織り込んだ場合(更なる政策対応を強化した場合の見通し)3)現時点では実現が見通せていないが、ヒアリング等の中で提案があった、更なる政策強化の方向性を整理し、その試算の妥当性や実現にあたっての課題・対応策につき議論を行った」ことを前提に、 ① 2030年目標見直しの方向性、②電源ごとの導入可能性、③再エネの導入拡大に向けたその他課題への対応の観点から議論が行われました。

    事務局から、資料の通り、運転開始までのリードタイムが短い太陽光を中心にさらなる導入の拡大を促し、現行のエネルギーミックス目標の再エネ比率「22~24%」から、「政策努力継続シナリオ」の「25%」と「政策強化シナリオ」の「27%」(太陽光発電のさらなる上積みを加え、事実上、再エネ比率は30%以上になる見込み)に積み上げていく方向性が提示されました(政策強化によって最大限導入した場合、2030年の再エネ発電電力量は2,903億kWhに、これに太陽光発電のさらなる上積みが加わることで、事実上、再エネ比率は30%以上になる見込みと試算。発電総電力量を10,650億kWhとして試算)。

    分科会では多くの委員が30%超という方針に賛同しましたが、実現可能性について危惧する声も上がりました。

資料3 本日御議論いただきたいこと
※画像クリックで拡大します。

資料4 2030年の再エネ導入見通しの検討にあたってのフレームワーク

(3)コスト・国民負担の受容性

    2030年において、既認定案件がこれまでと同様のベースで導入された場合を機械的に試算すると、再エネ比率22~24%、買取総額は3.9~4.4兆円となり、仮に、全ての既認定案件が稼働した場合、再エネ比率25%、買取総額は4.9兆円となる試算も提示されました。

    2019年の再エネ導入比率は18%(1,853億kWh)2030年の22~24%(2,366~2,515億kWh)に向けて、再エネの導入を引き続き進めていくことが重要であるが、電源のリードタイム、時間軸を考慮した目標設定が必要であること、再エネを拡大していく上で、FIT賦課金等、足元での国民負担について消費者のコンセンサスを得ることが重要な課題であると提示されました。

資料5 試算のまとめ
※画像クリックで拡大します。

3.おわりに

    ①分科会では事務局からの資料説明後、分科会を構成する23名の委員から様々な意見が出されました。主な意見は次の通りです。

橘川武郎国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:「政策強化シナリオによって、太陽光発電の導入比率が11%、風力4%、地熱1%、水力9%、バイオマス4%、合計29%。これに太陽光発電のプラスαが加わることで、事実上、2030年の再エネ電源比率は30%以上という方針が打ち出されたと理解した」。

隅 修三東京海上日動火災保険相談役:「2030年における日本のNDC(温室効果ガスの排出削減目標)を国際的に遜色ない目標に上方修正する可能性が取り沙汰されているが、30%を超える目標値に引き上げることは難しいのではないか」、「再エネの最大限の導入にあたっては、2030年という時間軸で考えると太陽光発電が中心となるが、最大の障害は立地制約だ。温対法の改正によってポジティブゾーニング、促進地域を指定して、太陽光発電などの導入促進を掲げているが、地元との調整を含めて、促進地域の指定も簡単なものではない。温対法改正によって、どれだけ再エネ比率を引き上げられるのか、明確にすべきだろう」。

工藤禎子三井住友銀行 取締役専務執行役員:「太陽光発電は2020年度の認定量が維持・継続されると仮定して、2030年までの新規導入量を算出しているが、過去のトレンドを見ても、太陽光発電の認定量は減少傾向にある。実際に、事業者からはFIT価格の低下による投資インセンティブの減退に加え、送電網や適地の問題によって、優良案件の確保が難しいという声が聞かれ、金融機関への持ち込み案件も減っている。このような状況下で、2020年度の認定量1.5GWを2030年まで横置きすることが、現実的なシナリオなのか。慎重な判断が必要ではないか」。「再エネ比率の上方修正がどれだけの負担増となるのか、コスト試算を示すべき」、「議論が進むカーボンプライシングの税収を再エネ促進にあてるべき」。また、エネルギー需要想定のマクロフレームの一つである「経済成長率2.3%」は甘い水準ではないか。目標設定年を2030年にこだわる必要はないのではないか、等の意見も出されました。

    ②次回の分科会では、今回の各委員からの意見等を踏まえて、2030年のエネルギー需要(省エネの深堀)、再エネの導入見通しの修正案が提示され、新たな検討が加えられることとなっています。

    ③最後に、保坂伸資源エネルギー庁長官から、4月15日に開催される日米首脳会議や、4月中旬の気候変動サミット、6月開催のG7といった国際交渉の動きを念頭に「いよいよ各論を詰めていかなければいけなくなった」と述べ、2030年の再エネ比率などの各論を速やかに決定していく構えである旨の発言がありました。

目次に戻る >