「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その5)
-2050年カーボンニュートラルを見据えた 2030年に向けたエネルギー政策のあり方-  


1.はじめに

    経済産業省は2021年4月28日、第42回総合エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)を開催し、「2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年に向けたエネルギー政策のあり方」を議論しました。

    菅義偉首相は4月22日の「地球温暖化対策推進本部」で温暖化効果ガス排出削減目標について、2030年の新たな野心的な排出削減目標を発表しました。(注)

    会議の冒頭、梶山弘志経産大臣は、菅首相から新しい削減目標達成に向けた施策を具体化すべく検討を加速するように指示があったとした上で、いかなる時代においてもエネルギー政策を進める上で、安全性を大前提に、エネルギーの安定供給と経済効率性、気候変動問題への対応のバランスをとることが重要であると強調。この点を大前提に議論していく必要があると挨拶しました。

(注)2021年4月22日の地球温暖化対策推進本部での菅内閣総理大臣の発言要旨

『2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指します。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けてまいります。この後、気候サミットにおいて、国際社会へも表明いたします。46%削減は、これまでの目標を7割以上引き上げるものであり、決して容易なものではありません。しかしながら、世界のものづくりを支える国として、次の成長戦略にふさわしい、トップレベルの野心的な目標を掲げることで、世界の議論をリードしていきたいと思います。

    今後は、目標の達成に向け、具体的な施策を着実に実行していくことで、経済と環境の好循環を生み出し、力強い成長を作り出していくことが重要であります。再エネなど脱炭素電源の最大限の活用や、投資を促すための刺激策、地域の脱炭素化への支援、グリーン国際金融センターの創設、さらには、アジア諸国を始めとする世界の脱炭素移行への支援などあらゆる分野で、できうる限りの取組を進め、経済・社会に変革をもたらしてまいります。各閣僚には、検討を加速していただきますようにお願いいたします。』


(出所)経済産業省資料


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2.温暖化効果ガス「2030年46%削減」に向けて

    梶山大臣の冒頭挨拶の後、事務局(飯田資源エネルギー庁次長)から43ページに亘る資料説明がありました。具体的には「気候変動対策をめぐる最新の状況」、「これまでの検討状況」について説明があり、次いで「これまでのエネルギー分野毎の議論の整理」について、下記の9点の論点についてこれまでの分科会での意見を整理したものとして説明がありました。

これまでのエネルギー分野毎の議論の整理
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(出所)経済産業省資料


    この後、18名の委員から意見が述べられました。

    「2030年46%削減」は野心的な削減目標で、その達成は至難の業であること、「再エネ+省エネ+原子力」のバランスを取る必要があリ、特に原子力の位置付けが重要であること、再エネについては太陽光を中心に推進していかざるを得ないこと、その導入拡大には地域共生や省庁間連携が重要であること、等が共通認識となっています。


    主な意見は次の通りです。

豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所 理事長:「新しい削減目標を達成させる上で、エネルギーの「3E+S」の原点に戻って議論することが重要。①原子力の位置付けを明確にする。②安定供給という観点から化石燃料の脱炭素化を加速化し、水素・アンモニアの位置付けを明確化し、大規模導入の可能性を政策に組み込む。③また、目標達成に一定の余裕を持たせるために、現行のエネルギー基本計画に記されている宇宙太陽光といった新しい技術についても、具体的な計画を織り込んではどうか。」

隅 修三東京海上日動火災保険相談役:「2030年における日本のNDC(温室効果ガスの排出削減目標)が46%と表明されたので、エネルギー全体としての裏付けが必要。残り9年余で「誰が」「どのように」実現するのか。2030年度の再エネ導入量について2,900億kWhが示されているが、その実現に向けての具体的な施策と数値を示し、導入のペース、コスト、国民負担の在り方を明確化する。再エネ、省エネに加えて原子力が重要。原子力の位置付けを明確にする。50年に向けたイノベーションも重要。」

橘川武郎国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:「第5次の再エネ目標22-24%は低すぎた。このまま行けば2030年度は30%が限度である。46%目標のために、エネルギーミックスにおける天然ガスの比率を27%から23%に下げたとすれば、天然ガスの調達がまた下火になるとし、その中で今年1月のような厳冬による天然ガスの在庫不足と電力需要の逼迫が起きることを危惧する。新しいエネルギーミックスを作るよりは、25年以後の高効率石炭発電(超々臨海圧発電=USC)の新設を廃止し、燃料アンモニアを推進することや、洋上風力を年間1GWずつ導入するなどのKPI(重要業績評価指標)を打ち出すべき。」

3.第6次エネルギー基本計画の骨格(案)の提示

    事務局から、次期エネルギー基本計画の骨格(目次)案が提示され、概ね了承を得ました。

    下表の4番目以降が従来と異なる点であるとし、従来は2030年を軸として整理したが、今回はまず、「2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」を整理し、「2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年に向けたエネルギー政策を考える上での基本的考え方」、「2050年を見据えた2030年に向けた政策対応」について整理していくとの説明がありました。

    今後の分科会での議論を踏まえて、骨格(目次)の変更もありうる旨の発言がありました。

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(出所)経済産業省資料


4.おわりに

    白石会長から「新しい削減目標が極めて野心的で、これまでの発想を転嫁しなければ道筋 を開くことも難しいとし、各意見を踏まえながらさらに議論を深めていきたい」旨の発言がありました。

    最後に保坂資源エネルギー庁長官から「国際会議の日程等からドタバタが続いている。当面、6月11日に英国で始まる主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)が控えており、これに合わせて議論を深めていくこととなるが、暫くドタバタが続くことをご了解頂きたい」旨の発言がありました。

    次回の分科会は5月13日(金)の予定で、とりまとめに向けた調整が続くこととなっています。

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