「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その6)
-今後のエネルギー政策に向けた検討/シナリオ分析-


1.はじめに

    経済産業省は2021年5月13日、第43回総合エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)を開催し、「2050年に向けたエネルギー政策のあり方」をテーマに、シナリオ分析について議論しました。昨年10月に始まった、エネルギー基本計画の見直し議論は今回で12回目になります。

    2050年における電源構成の叩き台(参考値のケース)として、再エネ54%、水素・アンモニア13%、CCUS(カーボンリサイクル)火力23%、原子力10%を示し、電力コストが現状(2020年の試算値13円/kWh)の2倍程度の24.9円/kWhに高騰するなど、多くの課題があることが提示されました。

総合エネルギー調査会基本政策分科会の動向
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分析結果/参考値のケース
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2.RITEによる2050年カーボンニュートラルシナリオ分析

(1)参考値のケース

    今回、地球環境産業技術研究機構(RITE)による2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告/「コスト最小化という基準での評価」)が発表され、これを基に議論が行われました。

    RITEの分析は、「世界エネルギー・温暖化対策評価モデルDNE21+」を使用して、解析を行ったもので、詳細説明は、この分科会の委員でもある秋元圭吾氏から行われました。 「いずれの電源も導入に向けて、技術的、自然的・社会的、経済的な課題を全て乗り越える必要。様々な課題を乗りこえられることを想定して設定するシナリオ。いずれの電源においても、この水準を達成することは容易ではない水準。」としています。

    「参考値のケース」は、昨年12月の第35回基本政策分科会に提示された「2050年における各電源の整理」における各電源の参考値(目標値ではない)がベースとなっており、電源構成のイメージとして、下図の通り、再エネ5~6割、原発とCO2を回収する火力発電で3~4割、水素・アンモニア1割としています。

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(2)6つのシナリオ分析

    ①RITEは、「再エネ100%ケース」に、技術イノベーションなどが進展する4つのケース(「再エネイノベーションケース」、「原子力活用ケース」、「水素イノベーションケース」、「CCUS活用ケース」)と「需要変容ケース」についてシナリオ分析を行いました。  ②「再エネ100%ケース」は、システム統合費用が急増し、電力コストは53.4円となり、これに10円程度を足した63.4円が小売価格のイメージとなっています。

分析結果/6つのケース
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(出所)経済産業省資料より作成


    ③RITEでは送電端における電力コストを電力限界費用と呼んでおり、これには再エネの統合費用も含まれるとし、一般的な託送料金や小売事業者のマージン等を10円/kWh程度とみなし、この合計が小売電気料金になると説明しています。足元2020年の電力限界費用(13円/kWh程度)に比べ、参考値のケース(34.9円)であっても2倍程度に上昇する結果となっています。

シナリオ別電源コスト(2050年)
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(出所)経済産業省資料より作成


    ④シナリオ分析結果からの示唆

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(出所)経済産業省資料


以上の示唆を踏まえ、

「将来にわたってカーボンニュートラルを確かなものにするためには、様々な技術イノベーションの実現が不可欠であり、イノベーションの不確実性を踏まえれば、特に、電源部門のように確実な脱炭素化が求められる分野においては、再エネ、原子力などの確立した脱炭素技術を確実に利用していくことが重要である。更に、これらの脱炭素技術を継続的に利用可能とするよう、政策の選択肢を狭めることなく、幅広く政策対応を行うことが求められる。

    また、どの分野のイノベーションが実現するか現時点で見通すことは困難であることを踏まえれば、特定の分野に偏ることなく、水素・アンモニア、CCUS*などあらゆる分野のイノベーションの実用化に向けた政策対応を行うことが求められる。」と提示されました。

(*CCUS:「Carbon dioxide(二酸化炭素)、Capture(回収)、Utilization(利用)、Storage(貯留)」の略。空気中や、発電所や工場が排出するCO2を集め、水素などと反応させて燃料や化学原料、コンクリートを作ったり、地中深くに埋めたりする技術)

2.分科会での意見

    19名の委員から意見陳述がありましたが、主な意見は以下の通りです。

    豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所 理事長:「①現状の日本の電気料金は産業分野で米国の2倍強であり、インドやASEANと比べると3-5割高い。中国や韓国と比べても4-6割高い。今でも高い電気料金が2倍になることは衝撃的で、製造業の国際競争力への影響が大きい。②原子力は現行ミックスの20~22%を最低維持すべき。そのためには基本計画で新増設・リプレースを明確にし、「依存度を低減する」という表現は改めるのがよい。また、安定供給の面から化石燃料の脱炭素化を加速すべき。③将来にわたっては、DAC(CO2の直接大気回収)・宇宙太陽光等の新技術の芽を吹かせていく必要がある。」

    橘川武郎国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:「いずれのケースでも電力コストの上昇は避けられない。6月11日のG7サミット対応となっているが、2030年度の電源構成目標を設定する必要性があるのか疑問である。原発の新増設を含め、2050年に向けてKPI(重要業績評価指標)を詰めていってはどうか」

3.おわりに

    最後に保坂資源エネルギー長官から「今回の参考値のケースはあくまでモデルで、目標値ではない。引き続き議論を深めて行きたい。」旨の発言がありました。

    今後も引き続きこのようなシナリオ分析によって、課題を明確にし、実現可能性を高めたエネルギー基本計画の策定が望まれます。

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