第11回「成長戦略会議」/「成長戦略実行計画案」の提示

1.はじめに

①2020年10月16日、菅政権の下、「成長戦略会議」第1回会合が開催されました。

    同会議は「経済財政諮問会議が示す経済財政運営と改革の基本方針等の下、我が国経済の持続的な成長に向け、成長戦略の具体化を推進する」ため、加藤勝信内閣官房長官を議長とし、内閣官房に設置されました。

②経済産業省は関係省庁と連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、同年12月25日開催の第6回成長戦略会議に報告されました。

    この戦略は、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策で、同グリーン成長戦略では、14の重要分野ごとに、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画となっています。

(日本エネルギープランナー協会ホームページ コンテンツ「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その2)をご参照下さい。)

③2021年6月2日開催の第11回成長戦略会議で、2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略などを盛り込んだ「成長戦略実行計画案」が提示されました。

    今回の成長戦略実行計画案では、上記②の「グリーン成長戦略」を踏まえて、自動車の電動化や水素の活用などについて、2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年までに1,000基程度の水素ステーションを整備、EV用急速充電設備を3万基設置するなどの数値目標が示されるとともに、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現させるなどとしています。

    今回は成長戦略実行計画案のうち、自動車関連分野を中心に概要説明します。

「経済財政諮問会議」と「成長戦略会議」との連絡体制
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「経済財政諮問会議」と「成長戦略会議」の機能分担
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(出所)内閣府資料


「成長戦略会議」メンバー
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(出所)内閣府資料より作成


2.成長戦略実行計画案の概要

(1)成長戦略実行計画案

    今回の成長戦略実行計画案は第1章~第16章33ページからなり、2050年カーボンニュートラルに関連して「第3章 グリーン分野の成長」が示され、「脱炭素化を目指し、グローバルにサプライチェーンの取引先を選別する動きも加速しており、温暖化への対応が成長の成否を決する時代に突入している。再生可能エネルギーを最大限導入する必要がある。2050年カーボンニュートラルという高い目標の実現に向けて、グリーン成長戦略の具体化を進める」などと狙いが示されました。

(2)自動車関連分野

①第4章「グリーン成長戦略に向けた新たな投資の実現」では、

「水素ステーションの整備:燃料電池自動車・燃料電池バス及び燃料電池トラックの普及を見据え、2030年までに1,000基程度の水素ステーションについて、人流・物流を考慮しながら最適な配置となるよう整備する。バスやトラックなど商用車向けの水素ステーションについては、事業所専用の充填設備も含め、整備を推進する。」

「電気自動車向けの急速充電設備の整備:充電設備の不足は、電気自動車普及の妨げとなる。急速充電設備を3万基設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現するよう、強力に整備を進める。」との方針が示されました。

②具体的には、EVやプラグインハイブリッド車が利用する充電設備について、2030年までに15万基の設置を目指すこととし、2021年2月末時点では約3万基なので、その5倍。このうち、直流を使って比較的短時間(例:満充電の80%で30分程度)で充電を行う急速充電設備は、約8000基から4倍の3万基とする方針です。

③政府は「グリーン成長戦略」の中で「2035年までに乗用車の新車100%を電動化」を掲げています。ここで言う「電動化」は、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)のいずれかにすることを指しますが、欧米や中国ではEVシフトに向けた動きが加速しています。日本の成長戦略実行計画のなかでは、EVと燃料電池車について「遅くとも2030年までにガソリン車並みの経済性・利便性を実現する」と明記されました。そのため、充電インフラや水素インフラの増設を後押しする税制優遇措置や補助金制度などを、さらに拡充することが見込まれます。

④なお、「カーボンニュートラルに伴う産業構造転換」(第4章)として、2050年カーボンニュートラルに伴う産業構造転換を支援するとして「例えば、自動車の電動化に伴い、エンジン部品サプライヤーが電動部品製造に挑戦したり、ガソリンスタンド・整備拠点が地域の新たな人流・物流・サービス拠点・EVステーション化したりする等の攻めの業態転換を支援する。あわせて、産業構造転換に伴う失業なき労働移動を支援する」との文言も盛り込まれました。

(3)まとめ

    今回議論された成長戦略実行計画案は、6月18日開催の臨時閣議で閣議決定されました。

<参考>「水素ステーション」とは

①燃料電池自動車(FCV)の燃料を補給するための水素供給設備(水素ステーション)は、「首都圏」「中京圏」「関西圏」「九州圏」の四大都市圏と、四大都市圏を結ぶ幹線沿いを中心に整備が進められています。2021年6月現在、全国で147ヵ所が整備されています。

②水素ステーションは

(ⅰ)水素を車両に供給するためのノズルを備えたディスペンサー

(ⅱ)水素を蓄えておく水素タンク

(ⅲ)水素を適切な圧力に高めておく圧縮機 などで構成されています。

③水素ステーションでは、製造・精製された水素を圧縮機で圧縮し、蓄圧器(ボンベ)に高圧で一時貯蔵します。

FCVのタンクに水素ガスを急速に充填すると断熱圧縮により温度が上昇するので、タンク温度が上がり過ぎないようにするために、あらかじめ水素をプレクーラーで十分に冷やします。

ディスペンサーには充填のためのノズルがついています。

ディスペンサーより水素をFCVに充填します。

④日本で運用されている水素ステーションは、水素の供給方式によって

(ⅰ)都市ガス・LPガスなどの燃料を使ってステーション内で水素を製造するオンサイト方式(定置式ステーション)

(ⅱ)製油所や化学工場など外部で製造された水素をステーションに、運搬してくるオフサイト方式(定置式ステーション)

(ⅲ)水素トレーラーに水素供給設備を積んで、移動が可能な移動式水素ステーションがあります。

(上記はチューリッヒ等の資料を参考にまとめています。)

水素ステーションの主要設備/イメージ
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(出所)経済産業省資料


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