「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その7)
-2050年カーボンニュートラルの実現に向けて-


1.はじめに

    経済産業省は2021年6月30日、第44回総合エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)を開催し、「2050年カーボンニュートラル実現に向けて」をテーマに、自然エネルギー財団等6団体からヒアリング(シナリオ分析結果のプレゼン)を行いました。

    自然エネルギー財団等は再エネ比率が70%超えたとしても、エネルギー消費比率を半減させることで、平均発電コストは現状(2018年11.5円/kWh)とほぼ同水準にとどめることができるとプレゼンしました。一方、日本エネルギー経済研究所等からそれに反する意見が出されました。

    昨年10月に始まった、エネルギー基本計画の見直し議論は今回で13回目になります。

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総合エネルギー調査会基本政策分科会の動向

2.「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」/再エネ大量導入に向けて

(1)梶山経産大臣の挨拶に次いで、事務局から前回の分科会で提案のあった地球環境産業技術研究機構(RITE)によるシナリオ分析踏まえて、シナリオ分析の目的、シナリオ分析の進め方について改めて説明がありました。

(2)その後、関係6団体からシナリオ分析結果のプレゼンがあり、国立環境研究所、自然エネルギー財団、地球環境戦略研究機関(IGES)、デロイトトーマツコンサルティング、日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所の順に行われました。また、RITEは前回のプレゼンの補足説明を行いました。

(3)エネルギー消費量半減の下で、安価に再エネを大量導入(70%以上)できるとする国立環境研究所、自然エネルギー財団、地球環境戦略研究機関(IGES)と大量導入で平均発電コストが約2倍に上昇すると分析したデロイトトーマツコンサルティング、日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所の相互間で激しい質疑応答が交わされました。

(4)現状の発電コストを維持して再エネを大量導入するためには、エネルキー需要を半減させる必要があることが示された一方で、そのハードルは、エネルギー消費の削減幅が50年時点で3割程度と目され、極めて高いとの認識で一致しました。

(5)また、エネ研等が示した再エネ大量導入による発電コスト(限界費用)の上昇は、EVをVPP(バーチャルパワープラント/仮想発電所)として利用することを含めた需要側の柔軟性を図ることで、低減することが可能と指摘しました。

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(出所)経済産業省資料


3.分科会での意見

    プレゼン、相互間の質疑応答後、委員から下記のような意見等がありました。

複数の委員から、モデル間比較の理解を深化させるため、シナリオ分析結果の一覧表の作成要望が出されました。

    豊田正和 (一財)日本エネルギー経済研究所 理事:2050年のビジョン取り纏めにあたっては、原子力の現状維持、再エネの最大導入ケース、アンモニア・水素の最大導入ケース等を含めた複数のシナリオ案の提示が望ましい。自然エネルギー財団提案の「最終エネルギー消費半減」は現実味があるかどうか、(再エネ供給量が)不足した場合の対応はどうするのか等の問題がある。

    山口彰 東京大学大学院工学系研究科 教授:本日のプレゼンは、「コスト最小化・再エネ導入最大化」の観点から行われているが、「3E+S」に加えて、リスクコントロール、レジリエンスの維持を大きな評価軸とすべきではないか。

    隅修三 東京海上日動火災保険相談役:国際エネルギー機関(IEA)ファティ・ピロル事務局長が、日本の国土は再エネ発電に適しておらず、(カーボンニュートラルの実現へ)原子力の利用制約の下では、東京23区の12倍の太陽光パネルと膨大な容量の蓄電施設が追加で必要と指摘したことを上げ、期待先行の再エネの大量導入を図ることで、結果として自然災害や環境破壊につながりかねないと危惧。加えて、自然エネルギー財団が示した中国やロシアからの国際連携線も、エネルギー安全保障の観点から重大な懸念である。

    水本伸子IHI顧問:(カーボンニュートラルにおいても)エネルギーセキュリティー上、数十日単位でエネルギーの備蓄は必要と指摘。再生可能な航空燃料やアンモニアなどの長期貯槽可能な脱炭素燃料をストックすることも重要である。

    橘川 武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:本日のプレゼンを聴き、RITEの分析結果の有効性が再認識された感がする。

4.おわりに

    「第6次エネルギー基本計画」の審議も大詰めを迎えたようで、早ければ7月中にも取りまとめが行われることも想定されます。

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