「第6次エネルギー基本計画」の方向性(その8)
-第6次エネルギー基本計画の素案提示-


1.はじめに

    経済産業省は2021年7月21日、第46回総合エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)を開催し、「第6次エネルギー基本計画」の素案を発表、その中で新しい電源構成目標を提示しました。

    本分科会は、昨年10月よりエネルギー基本計画の見直しに向けて14回集中的に議論を深め、7月21日の15回目の会合で、これまでの多面的な議論を整理して取りまとめを行いました。

    これに先立ち、7月13日の第45回会合では、「2050年シナリオ分析の結果比較」、「基本政策分科会に対する発電コスト等の検証に関する報告」、「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」の資料を基に、2030年度の電源構成の目標設定に向けた大詰めの議論が行われました。

    今回の素案には今年3月以降の関連分科会、小委員会等の検討結果も反映されています。

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2.「第6次エネルギー基本計画」の素案

(1)エネルギー基本計画(素案)の全体像

    「新たなエネルギー基本計画(素案)では、2050年カーボンニュートラル(2020年10月表明)、2030年の46%削減、更に50%の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標(2021年4月表明)の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことが重要テーマ」であり、「気候変動問題への対応と日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服という二つの大きな視点を踏まえて策定する」とし、「エネルギー基本計画全体は、主として、①東電福島第一の事故後10年の歩み、②2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応、③2050年を見据えた2030年に向けた政策対応のパートから構成」と明記されています。

    本文は119ページ、7章から構成さています。下記はその目次と主な項目です。

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(出所)経済産業省資料


(2)2030年度の電源構成

    2030年度の電源構成について、再生可能エネルギーを約36~38%程度(2015年策定時は22~24%程度)、原子力を約20~22%程度(同22~20%程度)、水素・アンモニアを約1%程度と、非化石(脱炭素)電源合計で59%程度(同44%程度)となる案を示しました。なお、総発電電力量は約9,300~9,400億kWh程度(同1兆650億kWh程度)と示しました。

    原子力については「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」としました。電力業界などが求めていた建て替え(リプレース)や新増設については、明記されていません。

    再エネのうち、太陽光は約15%程度、風力は約6%程度、地熱は約1%程度、水力は約10%程度、バイオマスは約5%程度。また、化石電源41%程度(同56%程度)のうち、LNGは約20%(同27%程度)、石炭は約19%(同26%程度)、石油等は約2%(同3%程度)としました。なお、数値はすべて暫定値で、今後変動もあり得るとしています。

    世界では2050年カーボンニュートラルの実現に向けて気候変動対策を前提としたエネルギー政策への転換が進められているなか、日本は、今回の見直しにおいても、「S+3E」(従来の「3E+S」の順が「S+3E」と変更されています)を基本とする現行のエネルギー基本計画の枠組みをほぼ踏襲したものとなっています。

    野心的な見通しが実現した場合、エネルギー自給率は約30%程度(現行ミックスでは概ね25%程度)、温室効果ガス削減目標のうちエネルギー起源CO2の削減割合は約45%程度(現行ミックスでは25%)となります。

    また、コストが低下した再エネの導入拡大やIEAの見通し通りに化石燃料の価格低下が実現した場合の電力コストとして、電力コスト全体で約8.6~8.8兆円程度 (現行ミックス9.2~9.5兆円)、1kWh当たり約9.9~10.2円/kWh程度(現行ミックス:9.4~9.7円/kWh)との試算を示しました。


(3)再生可能エネルギ‐:「主力電源化の徹底」

    「2030年に向けた政策対応のポイント」は以下の通りです。

①太陽光、風力など再生可能エネルギーの比率を2030年までに現在の目標値の22~24%から36~38%に14%上げることにしました。再生可能エネルギーの「主力電源化を徹底」するということです。核心は太陽光エネルギー。太陽光を2019年7%から2030年15%まで2倍以上増やすという構想です。風力は同期間、0.7%から6%に拡大する計画。太陽光・風力の拡大が主力となっています(「太陽光・陸上風力の導入拡大、再エネ海域利用法に基づく洋上風力の案件形成加速」)。

    経済産業省が7月13日の基本政策分科会に示した時点では、再エネの30年度の比率は約33%でしたが、「地域共生型再エネ導入の推進」、「企業の自家消費用の導入」などが見込めるとして3~5%上積みし、36~38%としました。

②環境にやさしい再生可能エネルギーには、敷地の確保が難しいという短所があります。自然環境の損傷などを理由に反対があり得るため、地域住民との協議も容易ではありません。政府は、太陽光発電パネルを公共施設の屋根に設置したり、使用しない農地を活用する案を検討しています。地域との協議には中央政府が積極的に参加する予定であり、送電網などの基盤施設も拡充していくことにしています。また、再生可能エネルギーが気候に影響を多く受けるため、発電量の減少に備えて電力をためられる蓄電池の普及も進める方針です。

2030年に向けた再生可能エネルギーに係る政策対応のポイント
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(出所)経済産業省資料


(4)原子力:「現行目標の維持」

    今回の計画素案にも明記されている通り、「原子力発電への依存度を可能な限り低下させる」ことは、福島第一原子力発電所事故を受けた日本のエネルギー政策の大前提であります。

    原子力発電の割合は、安定的なエネルギー供給源を確保する観点から、従来と同じ20~22%を維持することにした。7月22日付の朝日新聞では、「これまでに再稼働した原子炉は10基にとどまっている。この水準を実現するためには、未稼働の17基をあわせた27基が稼働し、これまでの実績を大きく超える80%という高い設備利用率(原発事故前10年の平均は67.8%)の実現を想定することになる。27基の中には、今後新たに60年運転の許可を得なければ2030年に運転できない原子炉が8基含まれている。原子力発電の再稼働に国民の同意は得られていない。20~22%という目標は実現が極めて困難であり、現実にはこれを大きく下回る可能性が高いといえる。」旨指摘しています。

(5)火力発電:「半減」

①「安定供給を大前提に、再エネの瞬時的・継続的な発電電力量の低下にも対応可能な供給力を持つ形で設備容量を確保しつつ、(中略)できる限り電源構成に占める火力発電比率を引き下げ」が政策対応のポイントとなっています。

②温室効果ガスを排出する石油や石炭、天然ガスなどの火力発電の割合は、当初の目標値である56%からさらに下げて41%まで減らすこととしています。計画通りなら、2019年は76%を占めていた火力依存度は、2030年には半分近くに下がることになります。

③位置づけが大きく変わるのが石炭火力。火力発電の中でもCO2排出量が多く、世界的に縮小の動きが強まっています。比率は19年度実績で32%と高く、国際的に厳しい目が向けられています。これまでは原発と同様に安定的に供給できる「ベースロード電源」とされてきましたが、今回の素案では外れました。旧式の非効率な石炭火力は段階的に廃止します。2030年度には比率を19%に減らすこととしています。

    また、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を2021年末までに終了する」と明記されています。

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(出所)経済産業省資料


(6)その他

①燃焼時にCO2を出さない水素・アンモニアの活用

    「カーボンニュートラル時代を見据え、水素を新たな資源として位置づけ、社会実装を加速。長期的に安価な水素・アンモニアを安定的かつ大量に供給するため、海外からの安価の水素活用、国内の資源を活用した水素製造基盤を確立」と明記。

②産業部門や家庭での徹底した省エネと電化の推進

    「産業・業務・家庭・運輸部門においては、徹底した省エネルギーによるエネルギー消費効率の改善に加え、脱炭素化された電力による電化という選択肢が採用可能な分野においては電化を進めることが求められる。一方、電化が困難な熱需要や製造プロセスにおいては、水素・合成メタン・合成燃料などの利用や革新的技術の実装が不可欠となる。」と明記。

③石油については、「平時のみならず緊急時にも対応できる強靱な石油供給体制を維持・強化するため、供給源多角化、産油国協力、備蓄等の危機管理の強化や、国内製油所やサービスステーション(SS)の維持、災害時に備えた供給網の一層の強靱化などに取り組 む必要がある。」旨明記されました。

2030年度電源構成の目標
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(出所)経済産業省資料を基に作成


再エネ電源別発電量比率

(注)第6次計画の数値は暫定値

(出所)経済産業省資料を基に作成


(出所)経済産業省資料


3.分科会での意見

    今回のエネルギー基本計画は、これまでの基本計画とは違い、脱炭素社会の実現を目指して「大きな転換」を前提に、「野心的な目標」を設定したものであること、2030年までこの10年間に、速効性をもって対処する必要があること等の共通認識のもとに、各委員から意見が述べられました。主な意見は以下の通り(敬称略)。

    豊田正和 (一財)日本エネルギー経済研究所 理事:①(再エネ拡大について)拡大の必要性については理解しているが、夜間発電しない太陽光発電に偏重したミックスとなっているが、バックアップ等が必要。昼夜を問わず安定的に使える風力、安定電源の地熱の比率を高める努力をしてはどうか。②ゼロカーボンの水素・アンモニアについてはしっかりしたコストダウン対策が必要。③(原子力について)2030年の「20-22%」維持と「ベースロード電源」の位置づけは評価できる。④2050年に向けての道筋は複数のシナリオを用意し、いつでも乗り換えられる柔軟性をもって頂きたい。

    寺島 実郎 (一財)日本総合研究所会長:①「ビジョン計画」からより一層「実行計画」へ踏み込む必要がある。産業構造転換のシナリオを明確にする必要がある。②「総合エネルギー外交」について、中東産油国との需給関係だけではないもっと踏み込んだ戦略を策定して欲しい。46%の辻褄合わせに終わらないように。

    隅修三 東京海上日動火災保険相談役:①エネルギーミックスの実現は「果敢な挑戦」であるが、努力目標として欲しくない。再エネ、原子力について地域との共生、国民への理解促進を進めて欲しい。②そのための政策支援の拡充とイノベーションの加速が必要。

    橘川 武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:エネルギーミックスは支持しがたい。エネルギー需要の減退を踏まえても、再エネは30%、原子力も15%が限度。LNG等の化石エネルギーの低下は際競争力の低下につながり危惧される。

    増田 寛也 東京大学公共政策大学院 客員教授:原子力について、新設・リプレースの検討を早急に始めるべきである。

    白石隆熊本県立大学理事長(分科会長):既にかなりの企業が水素など基本計画を先取りした形で動き出している。国としてこの10年の間に大規模な投資や民間部門の後押しをするといったメッセージを出されるよう要望する。

4.おわりに

(1)保坂資源エネルギー庁長官挨拶

    「先進国として世界規模の環境問題への対応に貢献しなければならないんかで、一定のCO2を削減しなければ、国の競争力に影響が出るという現実に直面している。

    各企業が100%脱炭素電源で製品を作らなければ輸出できなくなる状況にある。』との認識を示し、温暖化ガス30年46%削減を踏まえた野心的なエネルギーミックスに理解を求めました。

(2)今後の取扱い

①次回7月30日開催の第47回基本政策分科会では、今回の修正案が議論されることとなっています。

②その後、第6次エネルギー基本計画は、最終的には関係省庁等との調整を踏まえて正式案がまとめられ、意見公募(パブリックコメント)を経て、10月までの閣議目指すこととなっています。

    ただ、衆議院議員選挙等の政治日程が絡む等不確定な要素もありますが、10月30日のG20首脳会議や11月1日のCOP26の国際スケジュール前には決定されることと思われます。

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