(1)経済産業省は2021年8月4日、第48回総合エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長:白石隆熊本県立大学理事長)を開催し、「第6次エネルギー基本計画」の原案を議論、同計画案をほぼ了承しました。
本分科会は、昨年10月よりエネルギー基本計画の見直しに向けて16回に亘り多面的に議論を深めてきましたが、8月4日の第48回(17回目)の会合で、これまでの議論を踏まえて原案を取りまとめました。
(2)これに先立ち、7月30日開催の第47回基本政策分科会では、前回審議した次期エネルギー基本計画の素案を基に、内閣府の再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース、日本経済団体連合会、日本商工会議所、太陽光発電協会の4事業者’団体が意見陳述(ヒアリング)し、その後、意見陳述に対する質疑応答と議論が行われました。
※画像クリックで拡大します。①再エネ最優先の原則として、素案で示された電源構成における再エネ比率36~38%について、更に高みを目指すために、下限であることをさらに明確に記述すべきである。
②「柔軟性重視」と「公正な競争環境整備」の原則を確保するよう提言。
①「2030 年迄に100GWを超える太陽光を導入することは決して簡単なことではないが、国・自治体・国民・事業者が一体となって本気で取り組めば、125GWの野心的目標の達成の道筋も開けてくる。」
②太陽光発電の普及拡大に向けた具体的な取組み、国への要望について意見陳述。
①2030年の電源構成について、アンモニアと併せて水素の水準が明確に明記されたことは重要とし、今後の必要な政策リソースの裏付けを期待。素案において、安価で大量の水素供給の実現に向けた取組みの方向性、発電、運輸・産業部門などの多様な分野における需要創出など、取組みの抜本的強化の方向性が示されたことを高く評価。
②再エネは、中長期の目標実現のために不可欠で、日本の地理的特性を踏まえつつ、「低コスト」「安定供給」「責任ある事業規律」の要件を備えた「主力電顕」として導入を拡大していくべきと主張。一方で、増大するFIT(固定価格買取制度)賦課金は、国際的に割高な日本の産業用電気料金をさらに押し上げ、再エネの拡大で統合コストの増加も予想されるなか、導入に伴う追加コストの負担が産業の競争力を損なわないように十分留意すべきと要望。
③原子力はリプレースや新増設をふくめ一定水準維持すべき。
①「福島第一原発事故後の復興推進」、「2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」、「2030年に向けた政策対応(再生可能エネルギー、原子力)」、「2030年におけるエネルギー需給の見通し」について意見陳述。
②「2030年におけるエネルギー需給の見通し」については、「野心的な見通し」を、より現実的かつ合理的な「地に足のついたエネルギーミックス」へ近づけるべく、各種施策の着実な実行および目標に照らした不断の検証・見直しを要望。
③「炭素税」の導入には反対。
④原子力はリプレースや新増設を含め一定水準維持すべき。
この後、4団体と各委員との間に、①数値の具体的根拠(エビデンス)が薄弱ではないか(あるべき論と実行性ある数値)、②太陽光発電に対する「事故対応」、「変動対応」、「レジリエンス確保」、「廃棄物問題(事業化への取組み)」等への具体策、③財政支援と政策的価値としての「炭素税」との整合性、④容量市場に対する考え方、⑤原子力に対する「国民的理解」の促進策、等について質疑応答が行われました。
(詳細は省略)
「新たなエネルギー基本計画(素案)では、2050年カーボンニュートラル(2020年10月表明)、2030年の46%削減、更に50%の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標(2021年4月表明)の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことが重要テーマ」となっていることを受け、従来のエネルギーミックスに比べ一段と野心的な見通し案が示されました。その大きな軸は電源構成と省エネルギーです。
特に目を引くのは再生可能エネルギーで、現行の2030年度の電源構成における比率「22~24%」から「36~38%」に目標が引き上げられました。
原子力は現行の「20~22%」を維持、更に水素・アンモニア1%が加えられ、非化石電源全体で59%程度をカバーすることとなっています。一方で、火力は石炭19%、天然ガス20%、石油等2%と現行(56%)の3/4程度(41%)に下方修正されています。
今回の会合では、事務局から前回の修正点を中心に計画案の説明が行われました。
計画案は7章・121ページより構成されています。
下記はその目次と主な項目です。
※画像クリックで拡大します。 ※画像クリックで拡大します。需要面では、産業部門、業務部門、家庭部門、運輸部門において、技術的にも可能で現実的な省エネルギー対策として考えられ得る限りのものを積み上げ、最終エネルギー消費で約6,200万kl程度の省エネルギーを実施することによって、2030年度のエネルギー需要は約2億8,000万kl程度と見込まれています。
これらの徹底的な省エネルギーと非化石電源の拡大を組み合わせることにより、エネルギー起源CO2排出量は6.8億トン(2013年比▲45%)となり、他の温室効果ガスと合わせて46%削減目標の達成を目指すこととしています。
一次エネルギー供給は、約4億8,000万kl程度を見込み、その内訳は、石油等を約30%程度、再生可能エネルギーを約20%程度、天然ガスを約20%程度、石炭を約20%程度、原子力を約10%程度、水素・アンモニアを約1%程度となっています。
「電力の需給構造については、経済成長や電化率の向上等による電力需要の増加要因が予想されるが、徹底した省エネルギー(節電)の推進により、2030年度の電力需要は約8,600~8,700億kWh程度、総発電電力量は約9,300~9,400億kWh程度を見込む。その上で、電力供給部門については、S+3Eの原則を大前提に、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限導入に向けた最優先の原則での取組み、安定供給を大前提にできる限りの化石電源比率の引き下げ・火力発電の脱炭素化、原発依存度の可能な限りの低減といった基本的な方針の下で取組みを進める。」としています。
再エネ電源の導入目標は3,300~3,500億kWh程度で、これは2019年度実績の約2倍に相当します。この目標策定に向け資源エネルギー庁は関係省庁と調整し、リードタイムの短い太陽光を中心に最大限の積み上げを計画しています。
原子力については、「可能な限り原発依存度を低減する」、「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」という表現が残され、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」としながらも、リプレースや新増設への言及は見送られました。
一方で、2030年度の20~22%目標は、「再稼働済(13基)+設置変更許可済(3基)+審査中(11基)」の27基が設備稼働率80%で稼働して辛うじて達成できる水準。
日本の電源構成のうち、再エネが占める比率は経済産業省の2019年度実績でみると18%で、その内訳は、水力発電7.7%、太陽光発電6.7%、バイオマス発電2.6%風力発電0.7%、地熱発電0.3%となっています。これを2030年度までに水力発電10%、太陽光発電15%、バイオマス発電5%、風力発電6%、地熱発電1%程度へと引き上げることが明記されています。特に、太陽光発電と風力発電の大幅な導入拡大が見込まれていますが、その実現のためには、発電コストの低減、送電網の増強、再エネ出力変動に対応しての電力需給をバランスさせる調整力の確保、周波数と系統安定性を維持する慣性力の確保など、多岐にわたる課題を克服する必要があります。
(億kWh) | 発電電力量 | 電源構成 |
石油等 | 約200程度 | 約2%程度 |
石炭 | 約1,800程度 | 約19%程度 |
LNG | 約1,900程度 | 約20%程度 |
原子力 | 約1,900~2,000程度 | 約20~22%程度 |
再エネ | 約3,300~3,500程度 | 約36~38%程度 |
水素・アンモニア | 約90程度 | 約1%程度 |
合計 | 約9,300~9,400程度 | 100% |
再エネの内訳:太陽光約15%程度、風力約6%程度、地熱約1%程度、 水力約10%程度、バイオマス約5%程度 |
新しいエネルギー需給を踏まえた2030年度における各電源の「発電コスト」(新設時 円/kWh)は以下の通りです。
単位:円/kWh | |||||
電源 | 2020年 | 2030年 | 設備利用率 | 稼働年数 | |
火 力 |
石炭 | 12.5 | 13.6~22.4 | 70% | 40年 |
LNG | 10.7 | 10.7~14.3 | 70% | 40年 | |
石油 | 26.7 | 24.8~27.5 | 30% | 40年 | |
原子力 | 11.5~ | 11.7~ | 70% | 40年 | |
風 力 |
陸上 | 19.8 | 9.9~17.2 | 25.4% | 25年 |
洋上 | 30.3 | 26.1 | 30% | 25年 | |
太 陽 光 |
事業用 | 12.9 | 8.2~11.8 | 17.2% | 25年 |
住宅 | 17.7 | 8.7~14.9 | 13.8% | 25年 | |
地熱 | 17.4 | 17.4 | 83% | 40年 | |
水 力 |
小水力 | 25.3 | 25.3 | 60% | 40年 |
中水力 | 10.9 | 10.9 | 60% | 40年 | |
バ イ オ |
混焼 | 13.2 | 14.1~22.6 | 70% | 40年 |
専焼 | 29.8 | 29.8 | 87% | 40年 | |
(注)①2020年及び2030年に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりのコストを、一定の前提で機械的に試算。(既存の発電設備を運転するコストではない)②上記以外に、ガスコジェネ、石油コジェネがあるが、ここでは省略。 | |||||
2030年度までの取組みにスピード感を持つことが重要であるとの共通認識の下に、各委員から意見が述べられました。主な意見は以下の通り(敬称略)。
杉本達治 福井県知事:原子力を持続的に活用するのならば、2050年の必要な規模を示すべきである。
橘川 武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授:①原案、会長一任にも反対の立場である。②2030年における天然ガスの必要量が年間5,500万㎘を下回り、現状より1,000万㎘以上下がることが明らかになったことで、海外報道などで世界に衝撃を与えている。中国や韓国と比べて非常に悪い条件でLNGを買わされている。③原子力の新増設と立て替えが必要だと訴えていた委員の方々が、この案に賛成される意味がわからない。この原案を読む限り、原子力の将来に関する覚悟も責任も何も読み取ることができない。
豊田正和 (一財)日本エネルギー経済研究所 理事:①本文22ページ以降の状況変化に柔軟に対応できる「複数シナリオ」について、イメージを具体化する記述が欲しい。②「発電コスト」の本文への記載。③107ページの「新技術を世界で活用しやすくするような国際標準化等に積極的に取組むことで、我が国の利害や社会事情を国際ルールに反映し、我が国の優れた新技術が正しく評価される環境を作る」の「利害」という表現は誤解を招く。
柏木孝夫・東京工業大学特命教授:①エネルギー需給について、資料5で具体的に提示したことは意味がある。②LNGは長期契約を結んでおり、天然ガスの必要量の減少は、資源外交に密接する。長期にわたって不確定要素の多いエネルギーミックスにおいて、ベース&ミドル&調整用の電源として位置づけられている天然ガスについて、スムーズに安定供給できるよう明記することが必要である。
増田寛也 東京大学公共政策大学院客員教授:原子力について新増設、立て替え含めた真正面の議論は避けられない。早晩議論すべきだ。
高村 ゆかり 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授:①本気で脱炭素化に舵を切る意思を示した計画だ。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)、2030年度46%削減という目標を決めたからこそできた。各省庁もあらゆる政策をかき集めた。従来の積み上げ型の議論だけでは、ここまでの転換はできなかっただろう。世界的な脱炭素の流れの中で日本の産業競争力を支えるエネルギーシステムをつくるには、このタイミングを逃すと遅すぎる。2030年度の再生エネ比率36~38%の達成は簡単ではないが、送配電網の広域運用や蓄電技術のコスト低減、電気自動車の活用などあらゆる政策をとることが重要だ。原発はトラブルや訴訟などで想定どおり動かない可能性があり、20~22%は実現がかなり難しいのではないか。2030年は通り道でしかない。意欲的な2030年目標に向けて対策を加速することが、結果的に2050年の目標の達成につながる。
②カーボンプライシング導入について本文で明記されたことには感謝する。
①保坂資源エネルギー庁長官から、各委員から出された諸課題は今後、「総合資源エネルギー調査会」の場で検討していく旨の発言がありました。
②原案の修正は白石会長に一任することが決議され、全会一致ではなく、賛成多数で可決されました。これで、分科会での議論は一区切りがつき、今後は各省庁との調整を経て、パブリックコメントなどで国民の意見を幅広く聞き、10月にも閣議決定される見通しとなりました。
③最後に、梶山経済産業大臣から委員への謝辞を含め、挨拶がありました。