今冬の電力市場で記録的高値 ~電力逼迫の要因は燃料不足~

    2020年の年末以降、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場では、過去に例を見ない記録的な高値が続いています。年末年始は本来、企業のオフィス需要や工場などの産業用需要などが一斉に低下するため、電力のスポット価格も下落基調で推移しますが、20年~21年の年末年始は様相が異なりました。

    まず、その兆候が表れたのは西日本からで、12月15日に西日本で夕方に33円台(kWh当たり、以下同様)の高値を記録。次の日には、東日本でも35円まで価格が上昇し、西日本は50円まで高値が切り上がりました。さらにその次の日には、東西で60円台と続き、翌週には東日本で70円に達しました。12月26日は土曜日ながら東日本で75円台、西日本で80円まで上昇し、31日の大晦日も東日本で50円、西日本で70円に迫る水準となりました。年明けも価格の強基調は収まらず、1月1~3日は東西の高値が60円台、仕事始めの企業も多い4日には東西で80円に急騰し、6日にはついに東日本で100円を超える価格を付けました。それ以降も価格の勢いはとどまらず、12日には東西で200円台となり、15日に東日本で252円、西日本で242.21円まで上昇。どこまで上がるのか上限が見えない状況となる中、すでに小売電気事業者の事業運営にも大きな支障が出始めていることを重く見た経済産業省・資源エネルギー庁では、17日分から実質、価格の上限を200円と定める措置を講じました。これによって、価格が際限なく上昇するといった不安は解消され、徐々に価格の上値も切り下がる動きとなりました。

    一般家庭の平均的な電気料金単価は概ね25~30円程度であり、工場向けなどはさらに割安な水準です。このため、小売電気事業者にとって卸値でもある市場価格が50円でも痛手を被ることになりますが、それが100円台や200円台まで上昇する動きとなったため、収益の影響は計り知れません。小売電気事業者の中には、電気料金を市場連動とするプランで販売しているケースもあり、需要家による電気料金の急騰が懸念され、一部では顧客の解約を促す事業者や、高騰分は負担するという動きも出ました。

    なぜ、このような値動きとなったのでしょうか。一般紙等でも寒波の影響による供給力不足がたびたび報道され、こうした社会の動きに応じる格好で、電力各社は10年前の3.11以来となる節電要請を出しました。特に西日本では、電力会社間による電気の応援融通が連日実施される動きとなるなど、一部報道では停電の危険まで報じる動きも出ました。たしかに、全国的に寒波は強まり、12月下旬(21~31日)の電力の需要動向を見ても全国で前年比6.9%増となり、1月上旬には九州や北陸で前年から20%前後の増加に達するなど全国でも13.1%増となりました。ただ、今冬は秋口からラニーニャ現象による寒さが予想されていたほか、寒波到来といっても過去にない寒さというわけではなく、市場がここまで大荒れとなるほどの気象動向とはいえません。にもかかわらず、市場価格が過去にない高値を付け、電力各社が節電要請まで出すに至ったのは、燃料不足による電気の供給低下が要因と見られています。

    今や日本の火力発電の主要燃料は、液化天然ガス(LNG)ですが、このLNG不足が今回の電力市場の混乱を招く主要因となりました。LNG不足により、火力発電がフル稼働で運用することが困難な状況となり、スポット市場の玉出しが急減したほか、節電要請まで出すに至りました。LNG不足については、別掲で詳細が明記されていますので、ここで具体的なことは触れませんが、今後の日本のエネルギー安全保障をも左右しかねない問題提起になったといえそうです。日本のエネルギー自給率は2018年で11.8%に留まっており、今回のようなケースが生じた場合の根本的な対策が急務になったといえます。




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