化石エネルギー(石油、LPガス、天然ガス、石炭)の
備蓄はどうなっているの?

1.はじめに

    わが国は、一次エネルギー供給の86%を石油、石炭等の化石エネルギーが占め、また、そのほぼ全量を海外からの輸入に依存しています。このように、エネルギー自給率の低さや需給構造の脆弱性は今も変わらず、エネルギーの安定供給・安全保障の観点から備蓄は重要な政策課題となっています。

    石炭は、中東依存度0%で地政学的リスクが化石燃料の中でもっとも低く、貯蔵が容易で、国内在庫は約30日あります。また、熱量当たりの単価が化石燃料の中でもっとも安く発電コストは12.3円/kWh。一方、中東依存度88%と地政学的リスクが大きいのは石油ですが、可搬性が高く、備蓄も国内在庫として約250日あります。石油の発電コストは30.6~43.4円/kWhと燃料価格が高く、発電における経済効率性は良くありません。CO2排出量が化石燃料でもっとも低い天然ガスは、石油に比べて地政学的リスクは低く、発電コストも13.7円ですが、貯蔵が難しく、国内在庫は2~3週間程度となっています。

    現在、国内で法律により備蓄が義務付けられているエネルギーは、石油とLPガスだけです。

化石エネルギーの相対比較

(出所)各種資料より作成




2.石油の備蓄

(1)国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄の3本建てで推進

    わが国の石油備蓄は、国の直轄事業として実施している国家備蓄と、民間石油会社等が「石油備蓄法」(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)で義務付けられている民間備蓄、産油国と連携して実施している産油国共同備蓄の3本立てで進められています。

(2)備蓄の現況(製品換算ベース)(2020年12月末現在)

①国家備蓄は、全国10ヵ所の国家石油備蓄基地と、民間石油会社等から借上げたタンクに約4,538万klの原油および石油製品が貯蔵されており、民間備蓄は、備蓄義務のある民間石油会社等(石油精製業者、特定石油販売業者及び石油輸入業者)により、 約2,788万klの原油および石油製品が備蓄されています。これらに加えて産油国共同備蓄があり、約220万klが日本国内の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に政府支援の下で貸与し、貯蔵されています。国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を合わせた約7,546万klの石油、備蓄日数に換算すると約246日分(石油消費量の246日分相当)となり、「万一石油の輸入が途絶えた場合」や「国内の災害により特定地域への石油供給が不足する場合」に供給されることとなっています。

②現在、国家備蓄は大部分が原油ですが、災害時に石油製品を迅速に供給する必要性から、既存の民間備蓄を増強することとし、ガソリン、灯油、軽油、A重油を元売会社の流通在庫として、当面4日分の石油製品を国家備蓄として貯蔵することとしています。

③また、国家備蓄の備蓄形態は、地上タンク方式(苫小牧東部、むつ小川原、福井、志布志)、地中(半地下)タンク方式(秋田)、地下タンク方式(久慈、菊間、串木野)に洋上タンク方式(白島、上五島)の4方式があり、それぞれ地域の特性が生かされています。

④備蓄水準は「数量ベース」から「日数ベース」に変更
 民間備蓄:石油消費量の70日分に相当する量
 国家備蓄:産油国共同備蓄の1/2と合わせて、輸入量の90日分程度に
      相当する量

(3)産油国共同備蓄

    産油国共同備蓄は、これまでサウジアラビア、UAEとの間で実施されてきましたが、2020年度中にはクウェートとの間でも実施されることとなりました。

    既存の産油国共同備蓄と同様、①平時には、アジアや国内向けの供給拠点としてタンク内の原油は商業的に活用され、②わが国の緊急時には、タンク内の原油をわが国石油会社が優先購入できることとなっていますが、今回は新たに、③アジアの第三国の緊急時にも供給することを可能としています。

(4)備蓄の放出

    2011年3月の東日本大震災の際には、東日本地域での製油能力の減少への対応と、 石油・精製業者の製造力確保・継続のため、民間備蓄が1,050万㎘相当放出されまし た。これを受けて、経済産業省は法定備蓄義務量を70日分から45日分まで引き下げました。国家備蓄の放出事例はありません。

主な石油備蓄基地

(出所)経済産業省




3.LPガスの備蓄

(1)国家備蓄と民間備蓄

    LPガス備蓄は、石油と同様石油備蓄法に基づき民間備蓄と国家備蓄の2本立てで実施されています。

    LPガス民間備蓄は、1982年5月、石油備蓄法が改正され、新たにLPガス輸入業者に年間輸入量の40日分に相当する量(基準備蓄量)の備蓄が義務づけられました。 LPガス国家備蓄は、輸入量の50日分程度に相当する量の備蓄を目標として、下図の国家備蓄基地5基地での備蓄を実施しています。

    東日本大震災の際には、神栖基地に備蓄しているLPガス4万トンを放出し、国内 のLPガスの安定供給に大きく貢献しました。

(2)備蓄の現況(2020年12月末現在)

①民間備蓄は1,273千トン(47.8日)、国家備蓄は1,395千トン(52.4日)、合計2,668 千トン(100.2日)となっています。

②備蓄水準は石油と同様、「数量ベース」から「日数ベース」に変更
    民間備蓄:LPガス輸入量の40日分に相当する量
    国家備蓄:LPガス輸入量の50日分に相当する量
    合計:LPガス輸入量の90日分に相当する量

国家LPガス備蓄基地

(出所)経済産業省



4.天然ガスの備蓄

(1)備蓄の困難性

    LPガスと同じガス体エネルギーである天然ガスの備蓄は容易ではありません。  天然ガスは、わが国のエネルギー安定供給の柱として期待されていますが、その備蓄量は石油の約250日、LPガスの約115日に対し、2-3週間の操業在庫程度と言われています。特段の備蓄制度はありません。


(2)天然ガス/LNGの特性が要因

    この差は単純に設備が不足していることではありません。それは石油が常温で液体であるのに対し、LNGは放っておけば気化してしまう物質であるという特性によるところが大きいのです。

    LNGタンクは巨大な魔法瓶のようなもので、内部は常にマイナス162度以下の極低温に保たれています。この温度はLNGが気化するとき、熱を奪う現象によって保たれています。

    欧米には天然ガスのパイプライン網が張りめぐらされ、パイプライン自体が貯蔵施設の機能を保有していますが、わが国ではパイプライン網の整備が相対的に遅れています。また、備蓄コストも常温保存ではないため、非常に高くつくと言われています。



5.石炭の備蓄

(1)石炭の特性

    高い安定供給性(中東依存度0%)、経済性(熱量当たりの単価が最も安い)を持つ 石炭は、エネルギー自給率の低い日本にとって、とても重要なエネルギー資源です。 ただし、石炭にはCO2の排出量が多いというデメリットがあり、環境に配慮しながら 使用する必要があります。

(2)備蓄制度

    特段の備蓄制度はないですが、屋外貯炭と屋内貯炭の2方式で30日分程度が操業在庫として貯蔵されています。



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