日本着LNGの価格が高騰、その背景は

    日本へ到着する液化天然ガス(LNG)の価格が記録的な水準へ高騰しています。取引の中心となる11月に到着するLNGの価格は10月6日、百万英国熱量単位(mmBtu)あたり40.20ドルと過去最高値を記録しました。日本の電力会社が発電燃料として使用するLNGの供給不足が影響して相場が急騰した今年1月の最高値27.00ドルを大きく上回るとともに、9月以降の相場の上げ幅が22.15ドルと、日本着LNGの価格はこの1カ月で2倍以上、跳ね上がっています。10月中旬にかけて相場はわずかに軟化しましたが、それでも38.00ドル台後半で推移しています。

    なぜ日本着LNGの相場がここまで上昇したのでしょうか。日本では、冬場を控えLNGの需要が増加するなか、欧州における天然ガス相場の急騰が大きく影響しているようです。

    欧州では、天然ガス取引で指標となるオランダのTTF(Title Transfer Facility)市場の取引価格が10月5日、38.452ドルと過去最高値に達しました。今年4月1日の時点ではmmBtuあたり6.542ドルだったことから、この半年で約6倍の水準へと暴騰しています。

    欧州では昨年の秋以降、各地の気温が例年を下回る日が続いたことや脱炭素に向けた動きが強まったことも重なり、天然ガスの需要が増加する一方、ロシアが自国向けの供給を優先し、欧州向けの天然ガスの供給を減らしました。このため天然ガス在庫の減少が進み、今年の夏場以降も欧州の天然ガス在庫は例年の水準を10%以上、下回る状態が続きました。

    ロシアの欧州向け天然ガスの供給が増えないことに加え、今年の4月以降、北海産ノルウェーの天然ガスの供給も減少に転じました。北海の複数のガス田では、新型コロナの影響で作業員が不足していることから設備の修繕作業が昨年以来制限されているため、生産設備の障害が発生しやすくなっています。北海で最大のトロールガス田では7~9月にかけて複数回、天然ガスの生産設備で障害が発生し、北西欧州向けの天然ガスの供給に支障がでました。このため、オランダやイギリスなど北西欧州で天然ガスの需給の引き締まりが顕著となりました。

    天然ガスとLNGは、需給に加え取引価格の面でも密接に関連しており、天然ガスの価格が上昇すればLNGの価格も連動して切り上がる傾向にあります。欧州はアジアから遠い地域ですが、LNGの取引では欧州など大西洋圏とアジアの相場が多くの場合で連動しており、今回の欧州の天然ガス相場の上昇が日本着LNGの相場を押し上げる主要因となっています。

    日本着LNGの相場急騰は、日本向けLNGの供給不足も一因となっています。日本では、冬場に向け在庫の積み上げを急ぐ電力会社が散見される一方、マレーシアやロシアのサハリンなど複数の生産基地で設備障害が発生し、供給が減少しています。「アイダ」など9月以降、米湾岸地域に相次ぎ大型ハリケーンが襲来した影響で、米国出しのLNGの供給に支障が出たことも、日本向けLNGの供給が減少する要因となっています。この他、中国におけるLNGの需要増加も世界的にLNGの需給を引き締める要因になっているといわれています。

    LNGの相場高騰を受け複数の日本の電力会社は、冬場を前に発電燃料として重油や石炭に代替供給を求める動きを強めていますが、石炭や重油の供給余力も限られており、代替調達は容易でないようです。ブレント原油をはじめとした原油相場も上昇傾向にあり、日本着LNGの相場はしばらく強さを維持しそうです。




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