一般ドライバーにとっては、カーライフが日常化した現在、車の維持費の大部分を占めるガソリン価格の動向が大きな関心事となっている。月々のガソリン代は生活を左右するコスト。「上がった!下がった!」と一喜一憂の状況。この際、ガソリン価格に関し、次の項目について分かり易い解説を。
上記のような質問に包括的に解説することとする。
2022年10月の小売価格205.5円(政府の補助金支給がない場合の実売予測価格、月平均試算値)の仕組みは下図の通り。
※画像クリックで拡大します。ガソリン小売価格は、大別して本体価格の「原油価格(原油輸入コスト)、「精製費、備蓄費、自家燃費、金利、輸送費、販売管理費など諸コスト」と「税金」の2つの要素から構成され、「本体価格」が変動要因となっている。なかでも全体の47%を占める原油価格の影響が大きく、ガソリン価格は原油価格の変動によって決定すると言っても過言ではない。
また原油はドル建て決済なので為替の影響を大きく受ける。2022年は円安の進行で10月20日には円相場は一時、150円台まで下落し、1990年8月以来、32年ぶりの円安水準を記録し、原油輸入コストモ上昇した。
21年10月のガソリン価格は163.5円。22年10月の補助金支給のない予測価格205.5円と比較して、42円の上昇。補助金支給後の小売価格(10月平均値)は、169.1円(政府の補助金は36.4円と試算)。補助金支給後でも5.6円高い。(過去の実売価格の最高値はリーマン・ショック後の2008年8月の185.1円)
ガソリンにかかる税金の内訳は、
となっており、消費税以外、従量税として税額が固定されている。ガソリン税は道路整備財源として設定されたが、道路特定財源制度が廃止された後も、何ら調整されることなく、一般財源として現状のまま維持されている。ガソリンの税金の高さは度々指摘されてきたが、「政治マター」であるため、改善されない状態が長期化している。
原油価格は、WTI先物価格が世界的な指標。2020年10月以降上昇している。価格は1バレル(約159ℓ)当たりのドル価格。22年には3月以降100ドル超が続き、6月には114.59ドルを記録。その後、下落傾向が続き12月には76.52ドルとなった。(参考資料参照)
原油CIF価格は、原油の商品代金(Cost)に輸送による運賃(Freight)や保険料(Insurance)、為替変動を組み込んだ価格、わが国における実質的な指標価格。下図からもわかるように、22年4月以降大幅に上昇し、それにほぼ連動する形でガソリン卸価格、小売価格も上昇。原油CIF価格のドル建て表示ても、22年4月以降100ドル超の水準が続き、22年11月には146ドルと高騰した。
ロシアによるウクライナ侵攻は原油価格の急騰に拍車をかけた。ロシアからのエネルギー輸入減少分を米国が補填しているものの、域内の需給ひっ迫が強まり、原油等のエネルギー価格が上昇した。
原油CIF価格の推移(月次)(19/1~22/11)ガソリン価格は、かつて石油業法による規制下では卸価格について「標準額」や「行政指導価格」など政府による価格介入があったが、ロシアによるウクライナ侵攻後の22年1月までは自由価格。小売価格も自由価格で、政府による価格介入はなかった。しかし、石油危機などの緊急時には、「国民生活安定緊急措置法」に基づき、小売価格の「標準価格」が設定できる規定がある。1973年の第一次石油危機時にはこの法律に基づき、「家庭用灯油」、「家庭用LPガス」に「標準価格」が設定された経緯がある。
今回のガソリン補助金制度は過去に例を見ない異例な政府による価格介入措置である。
ガソリン小売価格は特約店や販売店の事業者が仕入価格(仕切価格/卸価格)を基に小売価格を決定。卸価格は従来の「輸入コスト積み上げ方式」から、2008年10月以降、原油価格等の「市場価格連動方式」に変更。また、卸価格は原油価格等による指標をタイムリーに反映させるため、その改訂は従来の月次から週次に変更され、小売価格についても同じ対応となった。
2014年4月以降、小売価格は下図のフォーミュラーで決定した卸価格に小売マージンを加味して決定されるようになった。
小売価格は、その4割を占める税金が「政治マター」(経済的な観点ではなく政治的な観点から判断しなくてはならない問題)となっていることから厳密には自由価格と言えないかもしれない。
また、消費税に関し、二重課税ではないかという指摘がある。
ガソリンの場合、本体価格に加え、ガソリン税や石油石炭税にも消費税がかかっている。(ガソリン税53.8円+石油石炭税2.8円=56.6円に消費税10%5.66円が課税。1ℓのガソリンを購入すると5.66円が二重課税に該当するという考え)
国税庁はガソリン税、石油石炭税はガソリン製造にかかる生産コストであり、そのコストを転嫁した販売価格への消費税の課税は違法ではないという見解。
酒税やたばこ税等いわゆる「蔵出し税」(商品を生産工場や倉庫から市場に出荷するときに課せられる租税)は海外も含めて同様の措置となっている。
ドイツ、フランス等20%相当の高率な消費税(付加価値税VAT)が課税されている国では二重課税について問題視していない。(石油諸税に対する日米欧の石油会社の考え方に大きな隔たりがあると推測される)
(*上図は、ガソリンの「本体価格」に相当する)
<小売価格>
※画像クリックで拡大します。前述した通り、ガソリン小売価格は原油価格に大きく左右される。その原油価格は国際情勢、エネルギー需給、OPECプラス生産国の原油生産動向等に影響される。
国内の都道府県単位のガソリン価格について地域格差が大きい。それはSSまでの輸送経路、店舗形態(セルフ、フル)、取扱量の違い等を反映して異なっている。
石油情報センター調査によれば、23年1月10日時点のガソリン小売価格は、全国平均で168.2円(予測価格は182.8円、14.6円の補助)。
高値県上位5県は、長崎(181.2円)、長野(177.8円)、鹿児島(177.5円)、大分(176.3円)、山形(173.7円)。安値県上位5県は、宮城(160.3円)、青森・徳島(162.7円)、岩手(163.1円)、秋田・埼玉(163.2円)、茨城(163.5円)。最高値と最安値の差は20.9円となった。
長崎県は離島が多いこと、長野県は、中京圏の製油所からまずタンク車で松本市の二次基地へ運び、タンクローリーに積み替えて転送するため、輸送費が嵩む。山形県は日本有数の豪雪地帯で、積雪により輸送障害がおり、「輸送コスト」の違いが大きな要因となっている。
石油情報センターでは、ガソリン価格は市場原理に委ねられているため、競争が激しい都市部などでは小売価格も下がる傾向にあるとし、「宮城、岩手、青森3県」が全国でも下位にあるのは、仙台の製油所に近い上、激しい競争があるため」と分析している。
なお、1月16日時点のガソリン小売価格は、全国平均で前週と同額の168.2円(予測価格は183.6円15.4円の補助)。
22年12月27日に発表された、日本エネルギー経済研究所の「2023年度の日本経済・エネルギー経済見通し」によれば、全体的には「高止まりが続くエネルギー価格、厳しい舵取りが続くエネルギー施策」とし、「基準シナリオ」によれば、「原油CIF価格」は、22年度は平均100ドル/バレル、23年度は91ドル/バレルと想定、「為替レート」は、22年度137.1円、23年度は135.0円と想定している。
上記①の想定価格を前提とすれば、
ガソリン小売価格は、「本体価格」は、原油輸入コスト77.3円、諸コスト30~35円「ガソリン税等」56.6円・「消費税」16~17円となり、179.9~185.9円と想定される。これは依然高い水準で、ガソリンの補助金制度の前提となっている基準価格「168円」を10円以上と大幅に上回る水準である。
最近1年間の原油価格及び為替レートの変動がガソリン価格に及ぼす影響を試算すると下図のようになる。
この1年間で原油CIF価格は、67.1円上昇した。これは原油価格がドルベースで48.4ドル上昇し、為替レートが18.7円円安になったことが要因。つまり、ガソリン小売価格に大きな影響を与える原料である原油価格が円安も反映して67.1円上昇したということ。一方、ガソリン小売価格は政府の元売会社への補助金支給がなければ71.3円上昇することとなるが、補助金支給(36.4円相当)で34.8円の上昇幅に抑えられたということ。