【ガス】12、備蓄制度がないLNG、何故か

    液化天然ガス(LNG)は、発電、輸送や各種工場での燃料に加え、化学品の原料向けなどにも需要が多く生活に欠かせない重要なエネルギー源です。日本では、この重要なエネルギー源であるLNGの備蓄制度がありません。電力会社や都市ガス会社は、輸入したLNGをタンクに貯蔵していますが、石油や液化石油ガス(LPG)のように国家備蓄の他、民間備蓄の制度が確立されていません。

    日本でLNGの備蓄制度が確立されていない大きな理由は、LNGの品質の特性にあります。LNGの主成分であるメタンは、気体の状態から体積をおよそ600分の1まで小さくして液化する際に、温度をマイナス162度まで冷やす必要があります。同じガスであるLPGのプロパンはマイナス42度、ブタンはマイナス0.5度へそれぞれ冷却すれば液化することから、LNGの液化温度は圧倒的に低いことが分かります。冷却して液化されたLNGは、防熱処理が施された専用タンクに貯蔵されますが、常時冷却を施してもタンク内の温度の上昇は避けられず、時間とともに気化が進んでしまいます。経済産業省は、電力会社が一般的に所有する容量が8万トンのLNG専用タンクにLNGを貯槽した場合、1日に80トンが気化し、約3年間で空になるとしています。一方、LPGは液化温度が高いことから、LNGに比べ気化の割合は少なくなります。加圧することでも液化が可能なため、LNGに比べ長期間の貯蔵に適しているといえましょう。

    LNGの専用タンクは、建設にも莫大な費用が掛かります。LNGの冷却を続けるためタンクの素材に断熱効果が高い高性能低温絶縁材などを使用するばかりでなく、断熱効果をより高めるため半地下もしくは地中にタンクを設置する必要があります。液化温度が総体的に高いLPGは球形タンクで、原油は冷却や加圧の必要がないため円筒のタンクで備蓄が可能になる事を踏まえると、LNGの専用タンクを建設するには、より高度な技術と費用がかかることが分かります。

    このように品質面、費用面から長期保存に向かないLNGに関しては、日本で備蓄制度が確立されないまま今日に至っています。電力会社が発電用に保有するLNGの在庫余力は、需要量に対して10~20日分に限られる状況が続いているといわれています。このなか2020年の冬場に、寒波の影響で電力会社のLNG在庫が大きく減少し、電力供給が不足する事態に陥りました。この動きを受け経済産業省は2021年の4月以降、電力会社にLNGの在庫量の詳細な提出を求め、LNG在庫量の調査および管理を強化し始めるなど、日本でも電力会社によるLNGの在庫動向に改めて関心が集まることになりました。

ではおさらいクイズです。

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